線形代数学 「演算の定義」

テストやら旅行やらで全然更新していませんでしたね…hahaha
ぼちぼちやっていきます.


前回,ベクトル空間の公理を述べた際に「加法」やら「乗法」をさも当たり前のように用いました.この含みのある言い方に対して,なんかツッコむところあるんすか?と思うかもしれませんが
「足すとか掛けるってそもそも何なんやろ…」
とか考えながら胸に手を当ててください.めっちゃモヤモヤしません?

てなわけでモヤモヤで眠れないあなたのために「二項演算」,そして「加法」と「乗法」をきちんと定義してみました.(スペシャルサンクス:齋藤さん)

[定義] 二項演算
Xを集合とする.直積(X,X)からXへの写像fX上の二項演算(演算)という.

えらいシンプルですね.
同じ集合Xに含まれる任意の元(要素)を二つ選んで,
そいつらを写像で届けた先がXだった時,その写像を「二項演算」と命名しました.それだけ.
演算は,高々写像なんですね.この「演算は写像にすぎない」という見方はいろんなところで助けてくれると思います.たぶん.

[定義] 加法・乗法
x,y \in Xについて,
f(x,y)x+yと書くとき,この二項演算を加法と呼び,二項演算の結果x+yを和という.

また,f(x,y)xyと書くときはこの二項演算を乗法と呼び,二項演算の結果xyを積という.

ちょっと特別な二項演算に名前を付けたよと言ってるだけです.前振りのわりにあっけない.

12+3=15,18\times5=90 になるとか,数のルールについては何も言っていません.
あくまで集合っぽい考え方なんですね.
定義だけじゃよくわからんという方は,実際に適当なアルファベットを用意して定義通りに書いてみるとわかりやすいと思います.
以下では,集合チックに定めた加法と乗法のことを写像としての加法と乗法」と呼ぶことにします.


じゃあいつもやってる足し算掛け算はなんやねんとなりますね.
ちょっとアホみたいですが写像としての加法・乗法」だけでは普段の計算で保証されているような交換則はおろか,数字そのものすら保証されていないことがわかります.

普段は特に気にせずに
1+2=2+1, 33\times4=4\times33
のように「数字」を元として交換則の成り立つ演算「+」や「\times」を行っているのですが,
写像としての加法と乗法」を考えているだけでは,
単に集合Xとあるだけなので,集合に対し何らかの特別な条件を与えてやらなければなりません.


普段お馴染みの演算,つまり四則演算を満たした空間のことを「体(たい)」といいます.
「体」という四則演算を自由自在に実行できる特別な空間(集合)を用意することで,やっといつも通りの演算を行う事ができるのです.(厳密にいうと実数体ですね)


どんな集合にも交換則やら分配則やらが保障されているわけではないので,
普段計算を行っている分には一見当たり前なこともきっちりとルール付けしてやらないといけないのです.
ベクトル空間の公理みたいなのを長々書いたのもこの理由にあります.
めっちゃめんど…

突然ヌルっと紹介された「体」ですが,スカラー内積を考えるうえで重要になります.
体ついてきっちり言おうと思えば群やら環についても触れなきゃならないので,今回はこの辺で終わりにします.


今日は「演算は写像だよ」と言いたかっただけです.


[最後に一言]
一年ぐらい前に,友人が「本当にこれ普段通り掛け算していいのか,というかそもそも積ってなんなんや…ってなる時が来るで」なんてことを言ってたのですが,そう言いだしたくなる気持ちが最近になって少しわかった気がする…かも.